新たなモノづくりが革新的な製品を産む
日本のモノづくりをより高度に
日本のモノづくりは高度な技量をもつ職人さんによって支えられ、高性能で高品質の製品の大量生産を実現し、世界での競争力を維持向上してきました。一方で、人間の技量にも限界があり、例えば手や切削工具が届かない部分の加工は難しく、自ずと製品設計にも限界が生じていました。そこで、当社は制約のない自由な形状創成が可能なAdditive Manufacturing(AM、積層造形技術)をインプラントに適用すべく、電子ビーム金属積層造形機を2007年に国内で初めて導入し、研究開発を開始しました。
新たな製造技術の獲得へ
現在、造形機と適用する材料の組み合わせで、最適な造形条件(ビーム電圧や走査速度などのパラメータ)が「レシピ」として提供されているため、導入後比較的短期間で良好な造形体を作成することができます。ところが、2007年の導入当初はそのような「レシピ」は明らかになっておらず、まずは良好な造形体を得るためのパラメータ探索から開始し、それを最適化しました。これら一連の研究開発により、インプラントに要求される有効性及び安全性などを担保できる、一連の製造プロセスを独自に確立しました。
製品開発事例
人工股関節用 臼蓋カップ
インプラントは、体内で長期安定して機能することが求められます。インプラントはチタン合金などで構成されており、生体親和性が良好であるものの、人工物であるが故に生体骨組織と直接結合はできません。そこで、骨組織と接続するインプラント表面を多孔体構造とし、多孔体に骨組織を侵入させ、多孔体と骨のアンカー効果で骨と人工関節を固定しています。従来は、細いワイヤーを編み込んだメッシュを積み重ねて多孔体とし、人工関節母材に接合して貼り付けていました。そこで当社では母材と多孔体を一体で積層造形することで、強度と性能を兼ね備えた人工股関節用臼蓋カップを先駆けて開発し、「GSカップ」として医療機器製造販売承認を取得しました。
- GSカップ 医療機器製造販売承認番号: 22600BZX00463000
特殊な微細構造を有する脊椎固定デバイス
人類は無重力下の宇宙空間に長期滞在すると骨密度などが著しく低下します。このように、骨は外力などの力学的刺激がない環境下ではその特性は劣化していきます。骨とインプラントの固定を意図して金属製の多孔体に誘導する骨も同様で、硬い金属が外力による荷重を主に負担するため、多孔体内部に侵入した骨は力学的刺激が少なく弱い骨となり、その結果インプラントと骨の固定力が十分に得られない場合があります。
そこで、大阪大学大学院の中野貴由教授(生体材料学)が提唱する骨基質配向化理論に基づき、インプラント内部に侵入した骨芽細胞をミクロンオーダーの溝構造で規則配列化して、生体アパタイトの優先配向を促して力学的要求に応じた強い骨を誘導することを目的とする、特殊な微細構造を持つ脊椎ケージ「UNIOS PLスペーサー」を開発しました。この微細構造は3Dプリンターにより人の手や切削工具では実現できない深部まで精密に造られており、動物実験の結果、インプラントの荷重方向に対して強い骨を成長させることが可能であることが大阪大学の研究成果として報告されています。
このように、積層造形技術により従来の製造方法による設計限界を超えた、革新的な新製品開発の実現も可能になっています。
- UNIOS PL スペーサー 医療機器製造販売承認番号: 30300BZX00111000
参考文献
- T.Ishimoto, Y.Kobayashi, M.Takahata, M.Ito, A.Matsugaki, H.Takahashi, R.Watanabe, T.Inoue, T.Matsuzaka, R.Ozasa, T.Hanawa, K.Yokota, Y.Nakashima, T.Nakano(Corresponding author): Outstanding in vivo mechanical integrity of additively manufactured spinal cages with a novel “honeycomb tree structure” design via guiding bone matrix orientation, The Spine Journal, (2022), 1742-1757. DOI: https://doi.org/10.1016/j.spinee.2022.05.006
- A.Matsugaki, M.Ito, Y.Kobayashi, T.Matsuzaka, R.Ozasa, T.Ishimoto, H.Takahashi, R.Watanabe, T.Inoue, K.Yokota, Y.Nakashima, T.Kaito, S.Okada, T.Hanawa, Y.Matsuyama, M.Matsumoto, H.Taneichi, T.Nakano(Corresponding author): Innovative design of bone quality-targeted intervertebral spacer: accelerated functional fusion guiding oriented collagen and apatite microstructure without autologous bone graft, in press The spine Journal, (2022). DOI: https://doi.org/10.1016/j.spinee.2022.12.011