開発ストーリー

一人ひとりに最適な医療技術を

より正確な手術のために

上肢の骨折後に変形治癒した症例に対する治療方法として、骨の一部を切断したうえで骨の向きを矯正し、金属製のスクリューやプレートにより、骨を固定し直す方法があります。従来の手術方法では、X線画像を基に二次元的に手術計画を立て、術者の経験と術中のX線撮影に頼りながら徒手的に骨切りを行い、矯正を図ります。骨は三次元的に変形しているため、正確な矯正を行うには時間を要すこと、術者の経験と勘に頼りきる手術法であることが課題になっていました。

画像処理技術の向上によるカスタムメイド製品開発

画像処理技術の向上により、CT撮影による医療画像を用いて三次元的な術前計画を行うことが一般的になりつつあります。そこで、患者様ごとに、変形治癒した骨を正常な骨に一致するように術前計画を作成できるツールを用いて、その特徴的な骨形態に最適なカスタムメイド手術ガイド、カスタムメイド骨接合プレートの製品開発を行いました。カスタムメイド手術ガイドは3Dプリンターを用いて造形される樹脂製の骨切りガイドであり、骨の特徴点に嵌め合わせることで、術者の経験、習熟度に左右されず、術前計画通りに骨切りを行う正確な手術が可能です。また、骨切り後には、カスタムメイド骨接合プレートを骨表面に設置し、スクリュー固定を併用することで、術前計画通りに骨の向きを矯正、固定することが可能です。

このように、ソフトとハードを組み合わせて使用することで、変形治癒症例に対して正確な三次元矯正と内固定(骨を固定し直す)を完成させることが可能です。

カスタムメイド手術ガイド
カスタムメイド手術ガイド
カスタムメイド骨接合プレート
カスタムメイド骨接合プレート
  • Accurio変形矯正システム 医療機器製造販売承認番号: 30100BZX00199000

更なる患者さんのQOL向上に向けての取り組み

画像解析技術の進歩は、国別(人種別)・性別・疾患別など様々な切り口で骨格の分析を可能とし、整形外科インプラントの設計や、サイズバリエーションの充実に寄与しています。その一方で、重度の変形や特異な症例は通常の製品での対応は難しく、更なる患者さんのQOL向上のためには、患者個々の症例に最適な製品設計と術前計画策定の必要性も議論されています。

そこで、大阪大学が主体となり実施されていた三次元矯正シミュレーションなどバイオメカニクス分野の基盤研究に対して、当社は2008年から共同研究として参画、スーパー特区への採択を経て、2009年からはJST(独立行政法人科学技術振興機構)A-STEP「未来型運動器インプラントの3次元手術支援部材及びシステム」として、変形矯正カスタムメイド治療法に対して本格的に研究を開始し、海外での献体骨実験による精度検証などの開発活動を進めました。

当該技術の有効性、安全性を確認し、2013 年から2014 年にかけて橈骨遠位端、上腕骨遠位端を対象とした変形矯正カスタムメイド治療法として、カスタムメイド手術ガイド、カスタムメイド骨接合プレートの医療機器製造販売承認を取得、新たな概念に基づく日本初のカスタムメイド製品として2014年から日本国内で臨床を開始しました。

さらに、2015年からはAMED(独立行政法人日本医療研究開発機構)からの支援を受け、前腕骨幹部への適応拡大、及び難治症例(より複雑な変形)に対して設計自由度の高いカスタムメイド手術ガイド、カスタムメイド骨接合プレートを用いた変形矯正カスタムメイド治療法の臨床研究を実施、先進医療として橈骨遠位端骨折変形治癒症例、内反肘症例、前腕骨幹部骨折変形治癒症例に対して、良好な臨床成績を確認することが出来ました。

これらの結果から、2019年にカスタムメイド手術ガイド、カスタムメイド骨接合プレートを組み合わせた新たな医療機器として「Accurio 変形矯正システム」の医療機器製造販売承認を取得し、2021 年に新たな治療法として保険収載(新たな薬価を設定)され、日本国内において本格的に臨床使用を行っています。設計自由度の高い手術器械・製品を実用化したことで、今後上肢における変形矯正カスタムメイド治療法の治療成績が飛躍的に向上すると期待されます。

今後の展開

本技術はカスタムメイド人工関節の基盤技術として将来性、拡張性が非常に高く、日本国内のみならず世界からも注目されていることもあり、変形治癒症例の多いアジアでも市場調査、研究開発を推進しています。

参考文献
  1. 村瀬 剛. AIとバイオメカニクス研究知見に基づいた肘・前腕の疾患治療. 日本整形外科学会雑誌. 2022, 96, pp. 247-257